【星座神話】うお座。母なる“ピスケス”の物語 / おやすみ前の神話シリーズ
秋の夜空に瞬く、うお座。
そこは、文明の生まれた地。
人をはぐくむ大切な礎、
偉大なる原初の川。
こんばんは。えむちゃんです。
今宵は、黄道十二星座の一つ、
起源のうお座“ピスケス“の物語をお話ししましょう。
うお座の歴史
明るい星々を繋いで見える、秋の大四辺形。
そのすぐ側に、くの字に曲がったうお座が
ひそやかに輝いています。
うお座の周辺には、
あらゆる水にまつわる星座が集まっています。
くじら座、みずがめ座、みなみのうお座。
一体なぜでしょう?
これには、季節的な背景がありました。
星座が発祥した古代世界。
当時の夜空で、ちょうど雨の多く降る時期に見えていたのが
うお座をはじめとするこれらの水にまつわる星座だったのです。
それが長い歳月が経つ中で、
星空は少しずつずれこんでいき、
現代では秋の季節に見える星座となっています。
現在、うお座の位置にある、春分点。
その地点を太陽が通過することで
昼の時間が夜よりも長くなる”春分の日”が決まるという、
いわば「春の基準点」となっている場所ですが、
これもまたかつては異なり、
当時はおひつじ座の位置にありました。
私たちに馴染みのある誕生月の「12星座」。
学術的な言葉で「黄道十二星座」は、
たとえば星座占いなどでも目にする並び順として、
一番最初におひつじ座、そして最後にうお座が来ますよね。
”黄道十二星座”の黄道、すなわち
太陽が空を通る道は、12等分に区切られ、
それぞれに12星座が一つずつ位置していますが、
その区切りが春分点を起点としているため、
春分点のあったおひつじ座から並べられています。
しかし、現在の夜空にあてはめると、
本当はうお座が一番最初です。
はるか昔から、うお座はくの字に分かれた2匹の魚が
紐で結ばれている様を表す星座でした。
この紐が表すのは、
2本の川が合流することを意味していると言われています。
星座発祥の地、古代メソポタミア。
世界最古の農耕文明を築いたその場所で、
人類の発展に欠かせなかったのが
「文明のゆりかご」と呼ばれる二つの川、
ティグリス・ユーフラテス川。
雨の少ない土地でも、川が生んだ肥沃な土壌によって
人々は豊かな暮らしを叶えました。
うお座のくの字に広がる先に、
包まれるように位置する秋の大四辺形は
発展の末に誕生した古代都市バビロン、あるいは
広大な農地を表しているとされています。
うお座は、私たち人類にとって
とても重要なものを語る星座なのです。
そんなうお座にまつわる、星の物語。
紀元前より伝わる神話を二つ、順にご紹介しましょう。
うお座の神話 デルケトとセミラミスの物語
古代シリアの人々が特別崇拝した
地母神・アタルガティスは、
またの名をデルケト(ティルガタ)という豊穣の女神。
その下半身は魚の姿、あるいは
魚のひれを持った姿であることが多く、
時には人魚として描かれることもありました。
あるとき、デルケトは女神の身でありながら
信者である人間の美青年に禁断の恋をしてしまいます。
一説に、その背景には
ギリシャ神話の美と愛の女神・
アフロディテの怒りを買ったことで
呪いを受けたためと伝わります。
神と信者、二人が交わることは禁忌でした。
デルケトは女の子を産みますが、
罪と恥の意識に苛まれ、その結果、
男を殺して自ら湖に飛び込んでしまうのです。
殺しきれずに捨てられた可哀想な娘は
一人、岩砂漠に取り残されますが、
赤子の体を温めようとたくさんの鳩が集まって
ミルクやチーズを運んできては彼女に与え続けました。
やがて食糧の減りを不審に思った街の人々が
可愛い赤子を見つけて保護し、
のちに娘は賢く美しい女性へと成長します。
その名を、セミラミス。
アッシリアの女王にして、世界の七不思議の一つ、
バビロンの空中庭園を造らせたと言われる伝説的な人物です。
ところ変わって、母・デルケトは
ユーフラテス川付近の湖に身を投げたものの、
ある大きな魚によって命を助けられていました。
その魚とは、みずがめ座の足元で
流れ出る水を飲み込んでいる、みなみのうお座。
そして、その2匹の子供たちが、
うお座であると伝えられています。
こののち、デケルトは半身魚の女神として
シリアの地にて崇拝されたのでした。
さて、そんな女神デルケトは、
のちの時代のギリシャ神話における
あらゆる神々と同一視され、
一説には月の女神・アルテミスや、
愛の女神・アフロディテの
由来となったとも言われています。
お次にご紹介するのは、
アフロディテにまつわるうお座の物語。
アフロディテとエロスの物語
あるとき、美と愛の女神・アフロディテは
息子である恋と性の神・エロスとともに
ユーフラテス川のほとりを歩いていました。
すると突然、巨大な影が二人を覆います。
目の前に現れたのは、人の体に毒蛇の下半身、
そして百のドラゴンの頭を備えた、
それはそれは恐ろしい巨人でした。
ギリシャ神話最強の怪物、テュポーン。
その身体は大変に大きく、頭は天の星々をかすめるほど。
敵対する神々にとっては最大の敵です。
アフロディテとエロスは驚きながらも
急いで魚に姿を変え、ユーフラテス川に飛び込みました。
うお座とは、最強の怪物を相手に
素早く逃げ切り命を守った母子の姿。
ちなみに、現在主流となっているうお座の物語として
魚になって逃げ込んだ先で、はぐれてしまわないようにと
母子が互いにリボンで結び合ったとも言われていますが、
実はこれには根拠となる資料が存在せず、
近代になってから加わった要素であると考えられています。
結ばれた紐の意味するところは、
やはり起源の通り、私たちを育んだ
母なる2本の川なのでしょう。
また神話の異説として、
川に落ちた鳩の卵を救ったという2匹の魚たちを
アフロディテが讃えて星座としたとも伝わります。
鳩といえば、鳩に育てられたセミラミス。
その名の意味は、「鳩」。
しかしそれ以前に、鳩は女神デルケトが
ほかの何よりも神聖視し、
大切にしていた聖獣でもあります。
これもまた、アフロディテの由来となった
デルケトの名残なのでしょうか。
空に輝くうお座の物語。お楽しみいただけましたか。
おやすみ前の神話シリーズでは、
世界中の神話をお話しします。
併せて、えむちゃんの朗読ちゃんねるも
ぜひ訪れてみてくださいね!
今日も一日、お疲れさまでした。
それでは、良い夢を。