【北欧神話1】原初の巨人ユミルと天地創造の物語
古き昔。
ユミルが住みし頃には、
砂もなく、海もなく、波さえなかった。
大地もなく、天空すらなかった。
全ては混沌であり、
草すらも生えていなかった。
『古エッダ』
北欧神話。
“人と巨人の始祖”といわれる、
原初の巨人・ユミル。
これは、ユミルと世界の始まりの物語。
こんばんは。えむちゃんです。
今宵は、原初の巨人ユミルと天地創造の物語をお話ししましょう。
ユミルの誕生
それは、天も大地も、神々すらも
まだ存在していない時代。
そこには、二つの両極の世界がありました。
北は極寒、永遠の氷に閉ざされた世界・ニヴルヘイム。
南は灼熱、永遠の炎に包まれた世界・ムスペルヘイム。
そしてそれらを隔てるようにして、中央には底なしの空虚へと繋がる“ギンヌンガガプ”と呼ばれる巨大な裂け目がありました。
ある時、北の世界・ニヴルヘイムの泉の水が流れ出し、ギンヌンガガプの深淵から吹きつけた冷たい突風に当たり、山のように大きな氷の塊ができました。
氷の塊は雷のような鋭い音を立てて、深淵へと落ちていきました。
そこへ南の世界・ムスペルヘイムからの熱風が吹き込むと、氷は溶けて蒸気となり、やがて大きな雲ができました。
すると今度は、ニヴルヘイムの冷気が吹き込み、雲は徐々に形を変え、ついには人の姿となりました。
こうして、虚無の世界に原初の巨人ユミルが初めて生まれ落ちたのでした。
原初の牛との出会いと霜の巨人たちの誕生
ユミルはお腹を空かせていました。
ですが困ったことに、世界にはまだ何もありません。
食べ物を探し求めて、彷徨い歩きます。
しばらくすると、同じく雲から生まれた原初の雌牛・アウズンブラに出会いました。
ユミルは雌牛に駆け寄ると、その乳をもらって、ようやく命をつなぎとめたのでした。
アウズンブラはというと、氷を覆う塩辛い霜(しも)を舐めて、それを食事としていました。
ある日、アウズンブラがいつものように霜を舐めていると、氷の塊が溶け出して、中から神様が現れました。
それはブーリという名の、世界の最初の神でした。
オーディンの誕生とユミルの死亡
ブーリが現れてから、その後は次々と新たな神が誕生しました。
ブーリの生んだボルという息子は、ヴィリ、ヴェー、そして、最高神オーディンの三神を生み出しました。
その頃ユミルは、自分の体のあちこちから、たくさんの巨人を生み出していました。
彼らのことを、神々は“霜の巨人”と呼び、邪なものとして忌み嫌います。
やがて神と巨人は対立し、とうとう、激しい戦いが始まりました。
霜の巨人を率いるユミルは、力の限りを尽くしました。
しかしそれでも、最高神オーディンらを前に、ついには倒されてしまうのです。
ユミルの傷口からは大量の血が流れ、やがては洪水となり、霜の巨人たちを次々と飲み込みます。
それでもなんとか生き残った一部の巨人たちは、長い時間をかけて再び数を増やし、神々に復讐を誓うのでした。
天地創造
さて、原初の巨人ユミルを倒した神々は、なにやらその亡骸をギンヌンガガプの裂け目へと運び出します。
彼らの目的は、ユミルの体を使った天地創造でした。
ユミルの肉体は大地に、血は海に、骨は山や岩に、そして髪は草木へと変えられました。
また、頭蓋骨で天空を作り、そこに脳から作った雲を浮かべました。
さらに、南の世界・ムスペルヘイムから飛んでくる火花を捕まえ、空に撒くと、太陽と月と星ができました。
このように、世界のすべての物語は、原初の巨人ユミルから始まったのです。
人間が生まれるのは、ずっと先のおはなし。
今夜のお話はいかがでしたか?
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今日も1日、お疲れ様でした。
それでは、良い夢を。