【北欧神話15】“詩の蜜酒“を巡る 哀しき運命の物語

海の神エーギルは問うた

みなが詩と呼ぶその芸は
一体 どこから来たのかと

詩の神ブラギは答えた

すべてのことの始まりは
神々による戦争にありと

『詩語法』

悲しい犠牲の上に造られた
詩の蜜酒

一口飲めば、たちまち言葉が溢れ出し、
まるで詩人や学者のように
うっとりするほど美しい詩を
自在に生み出せるという、魔法の酒。

そんな不思議な力を持つ酒に、
かの最高神オーディン
興味を示さぬはずもなく。

こんばんは。えむちゃんです。

今宵は、“詩の蜜酒“を巡る
哀しき運命の物語
をお話ししましょう。

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賢神クヴァシルの誕生

アース神族とヴァン神族。

神々による
長い長い戦争の終結。

戦いに疲れた両者は
人質を送り合うことで和解し、
休戦の印を置くことにしました。

神々はひとつの壺に
みなの唾液を集めると
知恵という知恵を注ぎ込み、
印が朽ちることのないようにと
そこから一人の男を創り出しました。

クヴァシルと名付けられたその男は
大変賢く、何を尋ねても
答えられないことはありませんでした。

そこで神々はクヴァシルに、
世界中を旅して人々に知識を授けるよう言いました。

小人族の悪戯

旅の途中、クヴァシルは
二人の小人族に声をかけられました。

小人の名は、フィアラルガラール

彼らは神より授かるクヴァシルの知恵を
奪おうと狙っていたのです。

二人はクヴァシルを上手に誘き寄せると、
酒に酔わせて殺してしまいました。

そして、知恵を含んだその血を
一滴残らず搾り取り、
3つの釜へと流し込みます。

釜にはそれぞれ名前があり、
オーズレリル、ボズン、ソーンといいました。

二人はそこに蜂蜜を混ぜ、
酒を作りました。

こうして出来上がったのが「詩の蜜酒」。

飲めば誰でも詩人や学者になれる
不思議な力を持つ酒です。

二人はクヴァシルの死因について、
彼に質問ができるほど賢い人がいないため
有り余る知識によって窒息したのだ
と説明し、神々を欺きました。

巨人に守られる蜜酒

二人の小人の悪さは止まりません。

今度は巨人ギリングに目をつけると、
彼を騙して海に溺れさせ、
さらにはその妻まで
石臼の下敷きにして殺してしまいます。

事態に気付いた巨人の息子スットゥングは
我を忘れて怒りだし、
二人の悪い小人たちを掴むと
潮が満ちれば海中に沈む岩礁の上に取り残しました。

何度も命乞いをする小人たちを
スットゥングは許しませんでしたが、
とうとう折れて、
貴重な詩の蜜酒と引き換えに
二人を解放してやったのでした。

こうして巨人の手に渡った詩の蜜酒の噂は
やがて神々の世界にも流れてきました。

そうなると、知識に貪欲な
かの最高神オーディンが
黙っていないことでしょう。

どうしても蜜酒がほしいオーディンは
なんとかして手に入れようと
巨人の世界ヨーツンヘイムを訪れました。

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オーディンの奪取

蜜酒を探すオーディンは、道中、
草刈りに励む9人の奴隷たちを見つけ、
鎌を研いでやろうと声をかけました。

オーディンが砥石で研いだ鎌は
大変切れ味が良く、奴隷たちは驚いて
その砥石がほしいと頼みました。

砥石はたった一つきり。

オーディンが宙に放り投げると、
奴隷たちは掴み合い、
結局互いに鎌で斬り合うこととなってしまいました。

やがて夜になり、オーディンは
巨人スットゥングの弟・バウギのもとを訪れました。

そして旅人を装い、
今晩泊めてもらえないかと尋ねました。

バウギは快く迎え入れ、
いろいろな話をしてくれました。

その中で、かの9人の奴隷たちの話が挙がります。

彼らはバウギに雇われて働いていたのです。

どうしてか奴隷たちが9人とも死んでしまって困っている。

特に今は収穫どきなのに、と嘆くバウギに
オーディンは提案をしました。

自分が代わりに9人分の労働をすること。

その報酬に、兄スットゥングの持つ
詩の蜜酒を飲ませてもらうこと。

バウギは、難しいだろうが一緒に頼んでみようと提案を呑みました。

そうしてオーディンはあくせく働き、
季節が変わってすっかり仕事が終わった頃に蜜酒を要求しました。

二人は蜜酒の持ち主・
スットゥングのもとへと向かいましたが、
「一滴たりとて譲らぬ」と
やはり断られてしまいます。

怒れるスットゥングの様子に
交渉は難しいと悟ったオーディンは、
ラティという名の錐(きり)を取り出すと
バウギに手渡して、岩に穴を開けるようにと言いました。

バウギはやれやれといった具合に作業し、
まだ穴が開いていないままで
オーディンに「開きました」と伝えます。

しかし、穴に向かって息を吹いても
砂埃が返ってくるだけ。

オーディンはバウギを睨みつけ、
今度こそ穴を開けてもらいました。

すると、途端にオーディンは
蛇の姿に変身し
穴の奥へと入り込んでしまったのです。

ようやく自分が騙されていた
と知ったバウギは
蛇を錐で突こうとしましたが、
その時にはすでに、オーディンは
洞穴の中へと通り抜けていました。

さて、洞穴の中には
一人の美しい乙女が佇んでいました。

彼女の名はグンロズ

スットゥングの娘にして、
蜜酒を守る番人でした。

オーディンは、
今度は凛々しい若者に変身すると
グンロズを口説き落とし、
3夜をともに過ごします。

そして心を許したグンロズに、
ほんの一口でいいからと
詩の蜜酒をせがみました。

グンロズはその言葉を信じて
洞穴の奥から三つの釜を持ち出すと、
途端にオーディンは釜に手をかけ
一瞬にして全て飲み干してしまったのです。

呆然とするグンロズを横目に
オーディンは鷲の姿となって
洞穴から飛び出しました。

その後を、異変に気づいたスットゥングが
同じく鷲に変身して追いかけます。

なんとか神々の国アースガルズまで逃げてくると、
神々は壺を持って待ち構え、
オーディンは盗んだ酒を壺に注いで行きました。

こうして神々は詩の蜜酒を手に入れ、
折に触れては酒と詩を楽しみました。

なお、オーディンが壺に酒を注いだ際に、
周りにこぼれた少しの蜜酒は、
やがて天空の下の大地へと下っていき、
腐敗したその酒を口にしたものは
一様にへぼ詩人となってしまったのでした。

今夜のお話はいかがでしたか?

おやすみ前の神話シリーズでは、
世界中の神話をお話しします。

今日も一日、お疲れさまでした。

それでは、良い夢を。

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