【北欧神話17】永遠の命を与える“青春の女神”イズンの物語
世界樹ユグドラシルの
トネリコの幹より落ち入って
エルフの乙女は
谷底にたたずむ
その名ぞ イズン
太古の根元に閉ざされて
心穏やかならず
『オーディンのワタリガラスの呪文歌』
優しく朗らかで、天真爛漫。
空色の青い瞳は澄み渡り、
その美しさは誰もが認めるほど。
とこしえの若さを司る女神イズンは
神々の世界アースガルズで
不老不死の林檎を守っている。
夫、ブラギの歌声を傍に
二人は仲睦まじく寄り添う。
こんばんは。えむちゃんです。
今宵は、神々に永遠の命を与える
“青春の女神”イズンの物語をお話ししましょう。
仲睦まじい夫婦

その出会いは必然でした。
緑の美しい森の中
やさしく揺れ動く木漏れ日につつまれて
その日、女神イズンは
詩の神ブラギに出会いました。
イズンとブラギは一目で惹かれ合い、
そして夫婦となり
やがて神々の国アースガルズに
暮らすようになると
ブラギは天界で神々のため
歌い奏でる詩人に、
そしてイズンは、不滅の若さを司る
青春の女神となるのです。
二人は天界で、
それは仲良く暮らしていました。
その様子が垣間見えるお話が一つ。
イズンの転落

あるとき、イズンは
世界樹ユグドラシルの高い木の枝から
ふいに転落してしまったことがありました。
みるみる落下したその先は、
世界の下層に広がる暗く冷たい氷の世界
ニヴルヘイムでした。
そこは世界樹ユグドラシルの
3本の根のうち1本が伸びている場所。
きっとイズンは枝から幹、
そして根元へと辿るようにして
ニヴルヘイムまで行き着いてしまったのでしょう。
根はフヴェルゲルミルの泉に差しており、
泉の中には死肉を喰らう
恐ろしい怪物ニーズヘッグが、
たくさんの蛇とともに住み着いて
世界樹の根に齧り付いています。
暗闇の中、
凍えるイズンはすっかり絶望して
その場にへたりこんでしまいました。
寄り添うブラギ

一方その頃、天界では
夫ブラギと神々が、
突然いなくなってしまったイズンを
あちこち探し回っていました。
そうして、どうやら
氷の世界にいるらしいと分かると、
ブラギは他の神々を連れて
さっそく迎えにいくことにしました。
最高神オーディンも心配して
イズンを早く温めてやるようにと
ブラギたちに一枚の真っ白な毛皮を与えました。
ニヴルヘイムに到着した一行は
必死の捜索の末、
ようやくイズンを見つけます。
横たわるイズンを急いで抱き起こし、
ブラギは一刻も早く
一緒に天界へ帰ろうと言いました。
ところがイズンは、
青白くなった唇を震わせながら
ようやくぽつりと話し出したと思うと、
「私は天界に帰らない。
いつまでもここにいる。」
と言ったのです。
こんな所は辛かろうと声をかけても、
イズンは涙を流しながら、
何度も首を横に振りました。
その様子は、
普段とは明らかに異なり、
まるで幻覚に苛まれているようでした。
無理にでも手を引いて
連れ帰るべきか。
やがてブラギは、他の神々に言いました。
「すまないが、お前たちは
先に天界へ戻っていてくれ。
私はしばらくここに留まる。
彼女が落ち着くまで、
そばにいてやりたいのだ。」
そうしてブラギは、暗闇の中
イズンの隣でいつまでも
ただ静かに寄り添ったのでした。
黄金の林檎

さて、イズンは
普段は天界アースガルズに住み、
神々の食べる“黄金の林檎”を守っています。
それは永遠の青春、
永遠の命を授けるという
不老不死の魔力を秘めた、
特別な林檎。
神々はこの林檎のおかげで
とこしえの若さを得ています。
トネリコの木の箱に仕舞われた林檎は
どれだけ神に差し出しても、
すっかり元の数だけ箱の中に現れるのでした。
しかし黄金の林檎は
あるとき突然攫われたイズンとともに
行方がわからなくなってしまうのです。
神々は老いを恐れて慌てふためき、
やがて争いへと発展する大騒動となります。
ですが、今回の物語はここまで。
黄金の林檎がどうなったかは、
また別のお話。
今夜のお話はいかがでしたか?
おやすみ前の神話シリーズでは、
世界中の神話をお話しします。
今日も一日、お疲れさまでした。
それでは、良い夢を。
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