【北欧神話20】巨人の娘スカジと海の神ニョルズの別れの物語
山の女神スカジは歌う
海辺の床では
海鳥の声に夜も眠れず
朝ごと鴎(かもめ)は波間に戻り
我を呼び覚ます
海の神ニョルズは歌う
わずか九夜、山に飽き
我は久しく留まらず
狼の声は悪しき響き
白鳥の歌こそ快し
『グリームニルの歌』
山を愛した巨人の娘スカジ。
海を愛した神ニョルズ。
国も種族も異なる二人は
ひょんなことから結ばれた。
ちぐはぐな二人の迎えた新たな暮らし。
その行く末は如何に。
こんばんは。えむちゃんです。
今宵は、巨人の娘スカジと海の神ニョルズ
の別れの物語をお話ししましょう。
二人の出身
雷轟く家、スリュムヘイム。
彼女の愛する場所。
巨人の世界、ヨーツンヘイムの山間に建つ
巨人スィアチの遺したその館は
娘のスカジが受け継ぎ、大切に守っていました。
毛皮を羽織り、得意の弓で獣を射て
深い雪山をスキーで軽やかに走り抜ける。
麗しの乙女は一人逞しく生きていました。
船のつく地、ノーアトゥーン。
彼の愛する場所。
海の神ニョルズは風を操り海を鎮め
毎日、館の窓辺に佇んでは
かもめや白鳥たちを眺めて過ごしていました。
穏やかな海を横目に浜辺を歩けば、
波はやさしくニョルズのつま先を濡らしました。
運命の巡り合わせ
山に住む巨人の娘。
海に住む神。
運命を変えたあの日、
スカジが亡き父の敵を取りに
神の国を訪れなければ、
結ばれることはありませんでした。
今は共に同じ未来を想い
二人静かに寄り添います。
結婚から程なくして、
ニョルズは美しい花嫁を
自分の館へと迎え入れました。
すれ違い
ところが、そこでの暮らしは
長くは続きませんでした。
海辺の館に住み始めたスカジは
耐えきれず、ある日とうとう言いました。
「山に囲まれた私の館が恋しい。
永遠に続く波の音、
耳につくかもめやアザラシの鳴き声が
気になって、どうしても眠れないのです。」
ニョルズは仕方なく
スカジの故郷に住むことを決め、
ただし向こうは年中寒くて参るので
1年のうち3ヶ月だけはこちらで住むのは
どうかと提案し、
スカジもそれで納得しました。
そうしてスカジの館に住み始めた
ニョルズでしたが、
そこで九夜を過ごすと、早々に音を上げます。
「海の見える私の館が恋しい。
樹々にうなる風の音、
雪崩、滝、氷の響き。
狼の遠吠えがうるさくて、
どうしても眠れないのだ。」
離縁
二人はすっかり困り果ててしまいました。
もとより国も種族も相容れない二人。
互いに歩み寄り
夫婦共にいることを願っても、
それは叶わぬことなのか。
二人はよくよく話し合い、
ついには夫婦の縁を切ることとなります。
それでも、悲しいことばかりではありません。
スカジとニョルズはようやく
自分の愛する国で
元ののびのびとした暮らしに戻れるのです。
その後スカジは冬の神ウルと再び結ばれ、
弓やスキーを楽しんでは仲良く暮らし、
ニョルズは子宝に恵まれ、
天界一美しいと名高い双子の兄妹
フレイとフレイヤを家族に迎えて
大切な日々を過ごしました。
幸せは、いつか来る
ラグナロクのその日まで。
世界が終わる、その時まで。
今夜のお話はいかがでしたか?
おやすみ前の神話シリーズでは、
世界中の神話をお話しします。
今日も一日、お疲れさまでした。
それでは、良い夢を。