【北欧神話23】色欲の女神フレイヤの純愛の物語
オーズは長きの旅路に身を投ず
フレイヤは夫を慕い涙に濡れる
女神の涙は赤き黄金
オーズの在り場所を探し
数多の名を持ちて
フレイヤはさまざまの国を巡る
『ギュルヴィたぶらかし』
欲に忠実で、性に奔放。
自由気ままな色欲の女神フレイヤは
その美貌で何人もの愛人を作り
日々を優雅に過ごしていた。
そんなフレイヤが
純粋なる貴い愛を交わした人。
激情の神、オーズ。
ただ一人、生涯で夫に迎えた人。
ただ一人、清らかな黄金の涙を流した人。
こんばんは。えむちゃんです。
今宵は、色欲の女神フレイヤの純愛の物語をお話ししましょう。
オーズの旅立ち

神々の世界アースガルズ。
女神フレイヤは
夫と二人の幼い娘たちとともに
日々穏やかに暮らしていました。
こんな幸せがいつまでも続いてほしい。
色欲の性にまみれるはずのフレイヤは
しかし心から、確かにそう願っていました。
愛する夫オーズはしばしば
長く旅をして家を空けました。
ところがある時の旅では、
待てど暮らせど
オーズはついに帰って来ませんでした。
フレイヤは夫の不在をひどく悲しみ、
寂しさから日夜さめざめと泣くのでした。
哀しみの日々

オーズは一体どこにいるのでしょう。
フレイヤは大きな岩の上
あたりを隅まで見渡して
そしてまた一人、涙を流します。
女神の白く美しい頬を伝い
ぼたりぼたりと落ちる涙は、
やがて硬い岩をも溶かし
その割れ目から大地に流れて黄金となり、
また海にこぼれた涙は
澄んだ琥珀となりました。
しかし泣いたところで
最愛の夫が現れることはありません。
悲しみに暮れる日々に耐えかねて
とうとうフレイヤは意を決し
オーズを探す旅に出るのです。
フレイヤの彷徨い

西に東に、南に北に。
フレイヤは各地に足を運び、
様々な名を使って、オーズを訪ねて回りました。
マルデル、ヘルン、ゲヴン、スュール、スキャルヴ、トルング・・・
人々は宛てもなく彷徨う彼女を憐れみました。
どこへ行っても、誰も知る人がいないのです。
鳥たちは悲しみの歌を歌い、
フレイヤは行く先々で涙を流し
各地に黄金を宿すのでした。
再会

またふたたび、北に西に、東に走り、
そして最後にフレイヤは
二度目の南の国に足を踏み入れました。
すると、桃色の花びらをひろげた
天人花(てんにんか)の咲く中に
彼女の愛する夫の姿が
ついにそこにあったのです。
ぼんやりと座りうつむくオーズに駆け寄り
泣きながらすがりつくフレイヤに
オーズははっと我に返り、
愛しい妻を受け入れました。
そうして二人は手を取り合い
ともに家路に着きました。
二人の歩いた一つ一つの足跡からは
樹々や草花が咲き乱れ、
まるで夫婦を祝福するかのようでした。
フレイヤは若い花嫁のように
華やかな微笑みを浮かべ、
それゆえ北欧の花嫁たちは
南国に咲く天人花を好んで髪に差すのです。
のちに希少な黄金が、
彼女の用いた別名から
“マルデルの涙”と呼ばれるようになったのは
遠い北欧の地にはよく知られるお話です。

今夜のお話はいかがでしたか?
おやすみ前の神話シリーズでは、
世界中の神話をお話しします。
今日も一日、お疲れさまでした。
それでは、良い夢を。
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