尊き聖なる神々は
裁きの庭にて議論する

害毒なるものを宙に撒き
オーズの妻を巨人共にやらんとするは
何者かと

誓い、約束、宣誓

重大なる契りはみな悉く破られた

『巫女の予言』

最高神オーディンは
愛馬スレイプニルに跨り
世界中を旅して回る。

スレイプニルは８本足の魔法の駿馬。

最高峰と歌われた名高い馬の
その出現のきっかけとは、
誰も予想などつくはずもない
とある天界の大事件にありました。

こんばんは。えむちゃんです。

今宵は、８本足の駿馬スレイプニルの
誕生秘話の物語をお話ししましょう。

巨人を防ぐ砦

その昔、神々が天と地と、
世界を作り出したとき。

天界に広がる神々の世界アースガルズには
まだ門がなく、
敵がいつ大地から攻め入ってきても
おかしくありませんでした。

神々の敵、それは大地の果てに住む
「山の巨人」や「霜の巨人」。

彼らを恐れた神々は、
天と大地とを繋ぐ虹の橋ビフレストに
光の神ヘイムダルを門番に置き、
昼も夜も見張ってもらうことにしました。

しかし、それでもまだ不安の残る神々は
今度は絶対に侵入できない
大きな砦を作ることにしました。

骨の折れる、大変大掛かりな作業です。

さてどうやって作ろうかと
頭を捻る神々のもとに、

ちょうど現れたのは
ある一人の、大工を名乗る巨人の男。

どうやら彼は砦の建設の噂を聞きつけ
自ら仕事を受けに来たようでした。

大工の要求

「巨人を防ぐ大きな砦を作ろうなど、
いくら時間を積んでも足りんだろう。
私の手に掛かれば、一年半で事足りる。」

神々は頷いて、
その仕事の報酬を尋ねますと

図々しくも巨人は
太陽と月、そして美しき色欲の女神フレイヤを要求したのです。

怒る神々に、悪神ロキが囁きました。

「どのみち私たちだけでは
身を守るための砦は、いつまでたっても完成しない。

ここはひとつ話に乗って、
ただし人の手は借りずに一人で作業し、
この冬の間中に完成が間に合わなければ
報酬は渡さないということにしてはどうか。

いかな巨人の男でも
こんな無茶には応えられまい。」

そうしてロキの言う通りに事は進められ、
巨人の男も条件を呑みました。

そのかわり、冬中の完成を急ぐので
愛馬スヴァジルファリの力だけは借りたいと巨人は言い、
ロキはそれを認め、さっそく工事が開始しました。

ところが、この判断がいけなかったのです。

巨人の愛馬スヴァジルファリ

無理難題な条件に臆することなく
作業に勤しむ大工の巨人。

なぜなら彼には、彼の倍働いてくれる
愛馬スヴァジルファリがいるからです。

予想外の仕事ぶりに、慌て始める神々。

その間にも工事はみるみるうちに進み、
やがて冬の終わる三日前には
砦はもう高くそびえ、
残すところは門だけになっていました。

神々は急いで法廷に集まり
緊急会議を開きました。

いかにして太陽と月を捕らえるか。

私たちの美しい女神を渡したくない。

一体誰がこんな事態を招いたのか。

悪神ロキだ。彼がいけない。

口々に責められて、
ロキはすっかり弱ってしまい
自分が必ず何とかすると約束しました。

八本足の駿馬

さて、工事を進める巨人の男は
愛馬スヴァジルファリに大きな石を運ばせて
いよいよ最後の門作りに取り掛かろうとしていました。

その時です。

森の奥から、一頭の美しい雌の馬が現れ、
目の前を通りすぎました。

スヴァジルファリはすっかり気を取られ
雌馬の後を追いかけます。

巨人も慌てて追いかけますが、
二頭は森を駆け回りながら
その日も、次の日も全く作業ができませんでした。

美しい雌馬の正体は、姿を変えたロキ。

その悪知恵で、まんまと巨人の邪魔をしたのです。

工事はもう間に合いそうにありません。

目前にあった報酬も得られないでしょう。

巨人の男はかんかんに怒り出し、
体を山の如く大きくして
神々のもとへ暴れに行きました。

するとすかさず神々は
雷神トールを呼びつけました。

「トールよ、来てくれ。
あの大きい体を見ろ、我々の敵“山の巨人“だ。
神と巨人との誓いを破り、天界を襲いに来たのだ。」

この声に、トールはすぐさま駆けつけて
最強の武器ミョルニルを
巨人めがけて振り投げました。

ミョルニルは見事に巨人の頭を打ち砕き、
トールは巨人の亡骸を持ち前の怪力で掴み上げて
地下深く、冥界ニヴルヘルへと投げ落とし、
こうして事態は事なきを得たのでした。

ところで、一体ロキはどこへ行ってしまったのでしょう?

彼は巨人の愛馬スヴァジルファリに追い回され、
工事の間はなんとか逃げていたのですが
ついに追いつかれ、やがては馬の子を産むのです。

そう、その仔馬こそ
８本足の駿馬スレイプニル。

世界一と評された最高神オーディンの愛馬は、
じつは悪神ロキから生まれたというのは
天界の神々のうち、さてどれほどが知っていたのでしょうか。

今夜のお話はいかがでしたか？

おやすみ前の神話シリーズでは、
世界中の神話をお話しします。

併せて、えむちゃんの朗読ちゃんねるも
ぜひ訪れてみてくださいね！

今日も一日、お疲れさまでした。

それでは、良い夢を。