【北欧神話29】最凶の神器“ミョルニル”の盗難事件の物語 / おやすみ前の神話シリーズ
悪神ロキよ
今から私が言うことを聞くのだ
これはまだ 地上の者も天界の者も
誰一人として知らぬこと
私の神器 “ミョルニルの槌”が盗まれた
『スリュムの歌』
その日、事件は起きた。
雷神トールの最強の神器・ミョルニル。
一度投げれば槌は自ずと動き出し
必ず敵を討ちとめて、投げた手元に戻ってくる。
そんな脅威の代物が
敵の手に渡ってしまった。
困り果てた神々は
一か八か、予想だにしない作戦に出る。
こんばんは。えむちゃんです。
今宵は、最凶の神器“ミョルニル”の
盗難事件の物語をお話ししましょう。
魔法の槌ミョルニルの盗難事件
悪神ロキは
開口一番のその言葉に驚愕しました。
「私の神器ミョルニルが盗まれた。」
雷神トールは
怒りに打ち震えながら言いました。
その神器は天界が誇る最強の槌。
彼が眠りから覚めた時にはすでに
何者かによって盗まれていたというのです。
赤々と燃えたぎる鉄製の巨大な槌ミョルニルは
投げれば百発百中で敵を仕留めます。
神々の間では唯一、
怪力のトールだけが扱える大変な代物。
そんな神器が今、敵の巨人たちの手に渡ったのだとしたら・・・
神々は恐ろしさに、みな血相を変え、
一刻も早くミョルニルを奪還すべく
悪神ロキは女神フレイヤから
“黄金の鷹の羽衣”を借りてきました。
それは着ると鷹に変身できる
という魔法の道具。
凛々しい鷹となったロキは急ぎ
巨人の国ヨーツンヘイムへ飛び立ちました。
巨人の王スリュムの要求
さて、ヨーツンヘイムの丘で
ロキを出迎えたのは、巨人の王スリュムです。
実は彼こそが、ミョルニルを盗んだ張本人。
しかし白々しく、馬の立髪の手入れをしながら
こう言いました。
「一体何があったのかね?
なぜお前はこんなところにきたのかな。」
「当然、何かがあったから来たのだ。
盗んだミョルニルを返せ。」
「返してほしくば、
女神フレイヤを私の妻として差し出せ。
出来ないのなら、ミョルニルは地下深くに隠したきり返さんぞ。」
こういうわけで、今度は
ロキは女神フレイヤの元へと戻り、訳を話しました。
そうして、巨人の王のお嫁に行ってほしい
と頼みますが、当然、女神は大激怒。
あまりの怒りっぷりに、大地は揺れて、
彼女の宝物ブリーシンガルの首飾りも地面に落としてしまうほどでした。
神々が困り果てていると、
虹の橋の番人、光の神ヘイムダルが
ある突飛な提案をしました。
「では、雷神トール、あなたがフレイヤに変装しなさい。
花嫁衣装を着て、顔を美しく飾って、
そして胸元にフレイヤの“ブリーシンガルの首飾り”を付ければ
敵を欺けるかもわからない。」
戸惑うトールに、悪神ロキも畳みかけます。
「ミョルニルはあなたの神器だ。
あなたが奪い返さねば、
天界は巨人どもに侵略されてしまう。」
渋々、トールはフレイヤの代わりに女装し、
そしてロキは彼女の世話役の女として付き添い
急いで二人で巨人の国へと向かうのでした。
雷神トールと悪神ロキの潜入
山羊の引く一台の車が到着し、
麗しの女神を今か今かと待ち侘びていた巨人の王スリュムは、
大歓迎で花嫁を迎え入れました。
宴会の場に運ばれる、大量の酒と肉。
スリュムは豊かな財も、
溢れるほどの宝も手にしていましたが、
ただ一つ、彼には愛する妻がいませんでした。
ゆえにフレイヤを嫁にもらい
スリュムはこの上なく満たされた気持ちでした。
ごちそうも次々に振る舞います。
しかし驚いたことには、
その花嫁は巨人たちにも引けを取らない
大食いの大酒飲みだったのです。
ロキ扮する侍女が言いました。
「王様、フレイヤ様は
嫁入りを待ち侘びるあまり、
かれこれ八夜は何も召し上がっていないのです」
この言葉に納得して、
スリュムはフレイヤに顔を近づけました。
すると、彼女の瞳があまりに恐ろしく、
火花散るような鋭い眼差しをしていたので
思わず飛び下がってしまいました。
すかさず侍女が言います。
「フレイヤ様は八夜もの間、
眠れずにおられたのです」
その時、花嫁の元に巨人の姉が近づいてきて、
可愛がってもらいたければ、
お前の腕輪をよこせ、と卑しくねだってきました。
さらにスリュム王が家臣に命じて
花嫁を清めるためにと、
ついに神器ミョルニルを持ち出して
トール扮するフレイヤの膝の上に置いたのです。
この絶好のチャンスに、
トールは怪力でミョルニルを掴み上げると
感情のままに振り回しました。
スリュム王もその姉も、
巨人たちはみな打ち倒され、
こうして神々のもとに最強の神器は戻ってきたのでした。
今夜のお話はいかがでしたか?
おやすみ前の神話シリーズでは、
世界中の神話をお話しします。
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ぜひ訪れてみてくださいね!
今日も一日、お疲れさまでした。
それでは、良い夢を。