【北欧神話4】最強の神トールと巨人の王ウートガルザ・ロキの技比べの物語
老練な将軍は
あらゆる側面から
敵を攻める。
『負けるが勝ち』(ゴールドスミス)
北欧神話最強と謳われる神、トール。
最強の武器に、随一の屈強な肉体。
向かう所敵なしと思われた彼にも、実は敵わなかった相手がいたのでした。
こんばんは。えむちゃんです。
今宵は、最強の戦神トールと巨人の王ウートガルザ・ロキ、二人の技比べの物語をお話ししましょう。
巨人スクリューミルとの出会い
これは雷神トールが最強の巨人フルングニルを打ち倒すよりも前のお話。
トールは、悪戯好きの神ロキと二人の従者を連れて、巨人の国ヨーツンヘイムを旅していました。
四人はある日、山のように大きな巨人に出会います。
「お前は何者だ?」
トールが問いかけました。
すると巨人が答えます。
「私はスクリューミル。
巨人の王ウートガルザ・ロキに使える者だ。
さては、その顔はトールだな?
こんな人気のない荒野になんの用だい?」
「我々はヨーツンヘイムを旅しているところだ。
巨人の王ウートガルザ・ロキの噂は、かねがね聞いている。
一度会ってみたいと思っていたんだ」
すると、巨人スクリューミルは言いました。
「この先を少し行くと、ウートガルズという城があるから行くといい。
ただし、巨人の国では、あまり生意気な口を聞いてはいけないよ。
私よりももっと大きな巨人がたくさんいるんだから。」
巨人の王ウートガルザ・ロキとの対面
四人は言われた方角へ歩みを進めました。
辿り着いたお城は、どこまでも広い野原に見上げるほど高くそびえていました。
お城に入ると、そこには大勢の巨人がずらりと並び、その一番奥には巨人の王ウートガルザ・ロキがどっしりと座っていました。
ウートガルザ・ロキは、トールたちを見るとニヤリと笑って、こう言いました。
「そこのちっぽけな男がトールだろう。
お前たちは何か芸はあるのかい?
優れた芸の一つでもないようなら、この城にいさせてやることはできないよ。」
これを聞き、真っ先に口を開いたのは、悪戯好きの神ロキでした。
「私は、ここにいる誰よりも、早くものを食べることができるぞ。」
ウートガルザ・ロキは答えます。
「そうか。では、わしの従者である巨人ロギと、早食い勝負をするといい」
ロキが席につくと、目の前には大量の肉が運ばれてきました。
さあ、ロキと巨人ロギは、凄まじい速さで肉を食らいます。
勝負は互角に見えました。
ところが、次の瞬間、巨人ロギは肉の入った桶ごと、パックリと食べてしまったのです。
これをみたロキはぼうぜんとして、あっけなく負けてしまいました。
続いての勝負では、トールの従者の一人、シアルヴィが名乗り出ます。
「私は足の速さなら負けません」
ウートガルザ・ロキは対戦相手として、背の低い巨人の少年フギを指名しました。
スタートの合図とともに、二人は駆け出します。
シアルヴィは間違いなく俊足でした。
しかし、巨人フギの速さには到底敵わず、結果は惨敗。
トール勢はまたしても負けてしまいます。
トールの力比べ
最後に、いよいよトールの番がやってきました。
「王よ、私は酒の飲み比べで勝負しよう」
「よかろう。だが、その前に、ちょっとした力試しだ」
そう言うと、ウートガルザ・ロキは、酒の入った大きな盃をトールの前に持って来させました。
「酒に強ければ一口で飲み干せる。
弱い者でも三口といったところか。」
トールは自信たっぷりに勢いよく酒を飲みました。
ところが、どれだけ飲んでも、酒はほんの少ししか減りません。
結局、最後まで飲み干すことができずに、トールは悔しさを隠し切れません。
トールは続いて、力比べを提案しました。
ウートガルザ・ロキは答えます。
「では、わしの飼い猫を持ち上げてみるといい。
ここにいる巨人たちは、誰だって簡単に持ち上げてしまうぞ」
トールは大きな猫の体を持ち上げようと、渾身の力を振り絞りました。
しかし、持ち上がったのは、たったの片足だけ。
とても全身を持ち上げることはできませんでした。
悔しがるトールは、さらに提案します。
「それでは、力比べに手合わせをしよう。
誰であっても組み伏せてみせる」
すると、前に進み出てきたのは、ヨボヨボの老婆。
ウートガルザ・ロキの乳母エリでした。
トールはお構いなしに、エリを一気に組み伏せようとしました。
ところがエリは巨大な岩のようにびくともせず、次第にトールの足はよろけ、ついには片膝をついてしまうのです。
ウートガルザ・ロキの種明かし
全ての技比べで敗北してしまったトールたちは、翌朝、面目丸潰れで城を後にします。
四人を見送りに来た巨人の王ウートガルザ・ロキは、最後にある秘密を打ち明けるのでした。
「お前たちの力量は大したものだった。
もう2度と会うこともないだろうから、本当のことを話しておこう。
実は、お前たちは今まで、幻術によって騙されていたんだよ。
城の方角を案内した巨人スクリューミルは、わしが姿を変えていたんだ。
技比べも、全て幻術だ。
早食い勝負をした巨人ロギの正体は、“炎”だ。
だから、肉も桶も一瞬で食べることができた。
早駆け競争をした少年フギの正体は、わしの“思考”だ。
誰だって、“思考”ほど早く駆けることはできないからね。
そしてトール、お前が酒の飲み比べをした盃は、海と繋がっていたのだ。
海を飲み干すことなど、誰もできないだろう。
だが、目に見えて盃の酒が減った時には驚いたよ。
それから、あの飼い猫だが、あれの正体は世界を囲む大蛇・ヨルムンガンドだよ。
片足が宙に浮くなんて、たまげたものだ。
最後に、老婆エリは、“老い”そのものさ。
どんな神であろうと、“老い”には勝てない。
さあ、もう二度と、巨人の世界に来てはいけないよ。
その時は、またわしが幻術をかけなくてはいけないからね。」
これを聞いたトールは、怒りが爆発しました。
城ごと破壊してやろうと後ろを振り返ると、ウートガルザ・ロキも、そして、そこにあったはずの城も跡形もなく消えていたのです。
狐につままれたようなトールたちは、すごすごと神の世界アースガルズへの帰路につきました。
最強の神トールを手玉に取った唯一の巨人、ウートガルザ・ロキ。
トールが再び彼に出会うことは、なかったといいます。
今夜のお話はいかがでしたか?
おやすみ前の神話シリーズでは、世界中の神話をお話しします。
今日も一日、お疲れさまでした。
それでは、良い夢を。