【北欧神話9】巨狼フェンリルと神々の奮闘劇の物語

神々は二度縛らんと努めて
二度鎖のむなしさを見る。

鉄も真鍮も。

魔力の外には、何も叶わず。

『ヴァルハラ』

こんばんは。えむちゃんです。

今宵は、凶暴な巨狼フェンリルと彼を捕らえんとする神々の奮闘劇をお話ししましょう。

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神々の会議

最高神オーディンに保護され、神々の世界へ連れてこられた狼の怪物フェンリルは、日を追うごとに成長し、獰猛さを増していきました。

巨大な体。

射抜くような眼光と剣のように鋭い牙。

唯一、勇敢な戦の神・テュールだけは、フェンリルに食べ物を与えることができました。

しかし、他の神々は皆恐れ慄き、もう近寄ることすらできなくなっていました。

今や手に負えなくなったフェンリルをどうすべきか・・・

神々は会議を開きました。

「今のうちに殺してしまわなければ・・・」

「いや、神々の国で血を流してはいけない」

「ではどうすればいいのだ?」

神々は頭を悩ませます。

その時、ある一人の神が言いました。

「では、鎖で縛り付けてしまおう」

この名案に、神々はさっそく頑丈な鉄の鎖レージングを準備すると、フェンリルをリングヴィの島へ誘い出しました。

鉄と真鍮の鎖

「フェンリルよ。

お前はいつも自分の力を自慢しているが、本当に強いのか?

その力が本当ならば、この鉄の鎖を千切るのも簡単であろう」

神々はフェンリルに問いかけます。

すると、フェンリルは嘲笑って答えました。

「そんな鎖など、容易く千切れてしまうだろう」

神々はフェンリルの体に鉄の鎖を巻きつけると、

「これでフェンリルは捕らえたぞ。もう一安心だ」

と思いました。

ところが、次の瞬間、フェンリルが体に力を込めると、頑丈な鎖はいとも容易く弾けてしまったのです。

驚いた神々は、次は鉄の鎖よりも2倍も丈夫な真鍮の鎖ドローミを取り出しました。

「見事な力だ。

しかし、この真鍮の鎖は、先程の鎖よりも比べ物にならないほど頑丈だ。

流石にこれを千切ることはできないだろう。」

フェンリルはニヤリと笑って、こう言います。

「そんなもの、たいしたことはない」

その言葉の通り、神々の期待とは裏腹に、フェンリルに巻きつけた真鍮の鎖は、またしても粉々に砕けてしまいました。

小人の国と魔法の紐グレイプニル

困り果てた神々は、小人の世界スヴァルトアールヴヘイムに使いを出しました。

小人は鍛治がたいへん得意で、彼らが作る魔法の道具であれば、フェンリルを捕らえることができると思ったのです。

「どんなに力を込めても千切れない、丈夫な鎖をつくってもらいたい」

小人はこの依頼を受けると、不思議な調合を始めます。

猫の足音、女の髭、熊の腱、魚の息、鳥の唾液・・・


それらすべてを混ぜ合わせると、魔法の力で一本の紐が出来上がりました。

それは非常に細く、しなやかで、相手が力を込めれば込めるほど丈夫になる魔法の紐グレイプニル

今度こそ捕らえたい神々は、再びフェンリルを呼び寄せました。

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3度目の力比べとテュールの右手首

「以前は見事であった。

鉄や真鍮の鎖を千切ったのだから、この紐など簡単に千切ってしまうのだろう」

フェンリルは神々から差し出された細い紐を見ると、「何か仕掛けがあるに違いない」と怪しく思い、こう答えました。

「今回はやめておこう。

そんな細い紐を千切ったところで、力の証明にはならないからね。」

神々は一瞬どよめきましたが、続けてフェンリルを挑発しました。

「もしかしてこんな細い紐が怖いのかい?

いつも力を自慢しているけど、やっぱり大したことはないね・・・」

するとフェンリルは怒り出します。

「一度縛り上げたら、もう自由にはしてくれないのだろう?

だが、これほど馬鹿にされては、我慢がならない。

私が縛られている間、お前たちのうちの誰か一人が、私の口の中に片手を入れておくと言うのなら、力比べをしてあげよう。

その怪しい紐に、魔法など込められていないと示して欲しいからね。」

そうです。フェンリルの言う通り、これは魔法の紐。

縛りあげれば、すぐにばれてしまうでしょう。

そうなれば、片手はきっと・・・

狼の鋭い牙が、ぎらりと光ります。

神々はすっかり縮み上がってしまいました。

その様子を見たフェンリルは、せせら笑います。

「やはり私を騙す気だったのか。」

その時です。

一人の男が前に進み出ました。

唯一フェンリルに食事を与えられる、あの勇敢な戦の神、テュールです。

テュールはためらうことなく、フェンリルの口の中に右手を差し込みました。

そして、神々は急いでフェンリルの体を細い紐で縛り上げました。

フェンリルは口の中にテュールの右手を含みながら、安心していつものように体に力を入れました。

ところが、どれほど力を入れようと、紐はきしみもしません。

そればかりか、紐はどんどん体に食い込み、ついには身動き一つ取れずに唸り声をあげるだけになりました。

これをみた神々は、フェンリルを笑い物にして喜びしました。

神々に騙されたフェンリルは、テュールの右手をがぶりと食いちぎり、悔しがって暴れまわりました。

しかし、どれほど暴れても、紐はますます体を締め上げるだけです。

唸るフェンリルの大きな口には、剣が突き立てられ、その傷から血が流れると、やがて大きな河となりました。

こうして捕らえられた巨狼フェンリルは、神々に復讐を誓うのです。

世界の終末のその日。

魔法の紐を断ち切って、雪辱を果たすその日まで。

今夜のお話はいかがでしたか?

おやすみ前の神話シリーズでは、世界中の神話をお話しします。

今日も一日、お疲れさまでした。

それでは、良い夢を。

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