【星座神話】獅子座。頑強なる“レオ”の物語 / おやすみ前の神話シリーズ
春の夜空に瞬く、しし座。
心の臓に静かに光るは
王の運命を読む一等星。
威風堂々、獣の王者の咆哮は
谷一帯を震わせる。
こんばんは。えむちゃんです。
今宵は、黄道十二星座の一つ、
頑強なるしし座“レオ“の物語をお話ししましょう。
獅子座の歴史
紀元前幾千年という、遥か古代のバビロニアで
王の象徴として崇拝された生き物。
その時代には
既に存在していたとされるしし座は、
神聖なライオンを象った、特別な星座でした。
獅子の尻尾の房を表す星の並びは
16世紀以降、かみのけ座として認定され、
ラテン語の学名で
「ベレニケの髪の毛」と呼ばれています。
ベレニケは、
古代エジプト王プトレマイオス3世の妻の名。
夫の無事の生還を願い、
美と愛の女神アフロディテに
その美しい髪を捧げたという伝承が由来となっています。
しかし、かみのけ座が作られるよりもずっと昔、
紀元前の時代には、
すでに女性の髪を表す星々として
知られていたのです。
ベレニケの名に並び連なるのは、
ギリシャのとある島の王女アリアドネ。
彼女は怪物ミノタウロスの住む
深い迷宮に入り込んだ
英雄テセウスを助けた人物として有名な女性です。
獅子の首から頭部にかけての湾曲した星の並びは
しばしば裏返した疑問符の形に見立てられ、
しし座の体全体はたくさんの銀河が照らし、
胸元に一番明るく光る星・レグルスは
ラテン語で「王」を意味する、獅子の心臓です。
古代バビロニアにおいては
王の運命を司る、重要な星とされていました。
星座はのちに古代ギリシャに伝来し、
神話とともに、後世へと語り継がれることとなります。
荘厳と華々しさ、そして傷ましさの折り重なる
しし座の物語とはこのようなものです。
獅子座の神話 ネメアの獅子
“ネメアの獅子を討伐せよ“。
それが王に課せられた、最初の償いでした。
ギリシャ神話の英雄ヘラクレスは
己の犯した罪に苦しんでいました。
異父兄弟の子どもと、
そして愛する我が子たちを
炎の中へと投げ入れ、殺めてしまったこと。
許されざる過ちは、しかし
ヘラクレスの意思によるものではありませんでした。
最高神ゼウスの妻、女神ヘラが
底知れぬ悪意を以って、彼に狂気を吹き込んだのです。
ゼウスはかつて、
古代都市ミケーネの王女に言い寄り、
彼女の婚約者の姿に化けて
やがて二人の子供をもうけました。
そのうちの一人がヘラクレスです。
夫の不貞に怒る女神ヘラは
ヘラクレスのことが憎くてたまらず、
あらゆる手を使って彼を貶めようとしたのでした。
エウリュステウスの十の試練
悪しき陰謀によるものといえど、
子供たちを手にかけたことは拭えぬ事実。
ヘラクレスは神アポロンの御神託を受け、
古代都市ミケーネの王エウリュステウスのもと
十の勤めを果たすこととなるのです。
エウリュステウスは、
彼がまだ母親のお腹の中にいた当時、
女神ヘラによるヘラクレスへの陰謀に巻き込まれ
予定よりもずっと早くに
無理矢理誕生させられたこともあり、
なんとも弱々しく、ひねくれた男でした。
エウリュステウスは最初の命令を下します。
「ネメアの谷に住む凶暴な人喰い獅子が
人々や家畜を襲い暴れ回っているらしい。
行って討伐し、その毛皮を持ち帰れ。」
ヘラクレスは承知して、ネメアへと向かいました。
最高神の血を引く超人的なヘラクレス。
かたや王であるエウリュステウスには、
力も能力もない。
いつか裏切られることでもあれば
太刀打ちできないでしょう。
あわよくば、気に食わないこの男を
亡きものにできるやもしれない。
そんな思惑も入り混じっていました。
ヘラクレスの獅子退治
体を覆い尽くす硬い鱗。
血の滴る大きな口。
一説には、不死の毛皮を持つともされるネメアの獅子。
母は蛇女エキドナ、あるいは月の女神セレーネ。
父は双頭の犬の怪物オルトス、
あるいは最強の怪物テュポーン。
この獰猛な獅子を倒すため
ヘラクレスは遠くから身を隠し、
隙を見て、得意の弓矢を放ちました。
ところが、矢は固い鱗に跳ね返され
打っても打っても、一本も刺さりません。
今度は棍棒を持ち出して
獅子に殴りかかりますが、
叩くうちに、あまりの体の頑丈さに
ついには棍棒の方がへし折れてしまいます。
凶暴と言われた悪名高いネメアの獅子は、
しかしどうでしょう。
ここにくるまで、ただ攻撃を受けるばかり。
その余裕は王者の風格。
弓矢にとどまりさえすれば、
攻撃されていることも知らず
相手にもしていなかったでしょう。
とはいえ、正面切って繰り返し殴られて
とうとう怒り出したネメアの獅子は
ヘラクレスに襲いかかってきました。
ヘラクレスとネメアの獅子の死闘
弓矢も棍棒も失ってしまった、ヘラクレス。
何とかかわして後ろに回り込むと、
獅子の首を素手で掴み、並外れた腕力で
力の限り締め上げます。
もがき苦しむ獅子は三日三晩抗いますが、
ついに体はうなだれて、二度と動くことはありませんでした。
こうして討伐を終えたヘラクレスは
獅子の爪で皮を剥ぎ、爪や牙は武器に、
毛皮は鎧に使って、さらなる武力を得ました。
この一連を知った最高神ゼウス、
あるいは女神ヘラは
怪物の正々堂々たるその戦いぶりに、
ネメアの獅子を動物の王として夜空の星座に掲げたのでした。
空に輝くしし座の物語。
お楽しみいただけましたか?
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今日も一日、お疲れさまでした。
それでは、良い夢を。