絶対零度!凍つく氷の魔物5選!
霜が降り、雪が舞い、
吹雪く酷寒の厳しさに
耐える人々の心は次第に荒んでゆく。
氷点下の冷気にあてられ、
芯まで冷えた体はこわばり、
ついには息もできず
やがて静かに死を迎える。
ここに挙げるは、
冷酷なる術を扱う氷の魔物たち。
その恐ろしき顔ぶれを前に、人は絶望する。
こんにちは。えむちゃんです。
今回は、絶対零度!凍てつく氷の魔物5選
をご紹介します。
ウェンディゴ / アメリカ・カナダ先住民の伝承(アルゴンキアン語族)
冬の森に響く、雷のごとく恐ろしい声。
北米大陸の先住民に伝わる
人喰いの怪物、ウェンディゴ。
食糧の乏しい真冬の季節、
人は化け物に取り憑かれ
ウェンディゴと成り果てる。
窪んだ目。灰色の顔。
荒れた口は血にまみれ、腐敗臭を漂わせる。
浮き出た骨は、乾いた皮膚を突き出して
外に覗かせている。
時にそれは醜い巨人の姿をし
氷の心臓を溶かさねば、倒すことは叶わない。
ウェンディゴという存在は
当時の人々にとって、大変な脅威でした。
食われる恐怖。
自我を失う恐怖。
中にはウェンディゴになることを恐れ
自ら死を望む者もいたといいます。
17世紀に生きたイエズス会士、
ル・ジェネという人物の書簡には
次のように記されています。
「我々が受けた報告によれば
前年の冬、彼らは奇妙な形で死を迎えた。
複数の貧しい人々が
未知の病に冒され、狂気に陥った。
激しい空腹に苛まれ、人の肉まで食らおうと
周囲の人々を襲ったのだ。
満たされない彼らは、新鮮な肉を求め続けた。
“死”だけが、この常軌を逸した病を治す
唯一の方法であった。」
1810年以降には
冬の飢饉の発生で食人事件も報告されており、
ウェンディゴという存在は
ますます恐怖の対象となりました。
実際、食糧難の時期に
人が乗っ取られたように変わってしまうという現象は
精神病の一つとして確認されており、
おそらくは栄養失調が原因だろうと言われています。
その症状は伝承になぞらえ、
“ウェンディゴ症候群”と呼ばれています。
アフーム=ザー / クトゥルフ神話
炎の神から産み落とされた
冷気の炎を纏う神。
古き邪神を解放する
クトゥルフ神話の旧支配者、アフーム=ザー(Aphoom-Zhah)。
触れれば全てを凍らせる
極寒そのものでありながら、
その姿は灰色の炎。
生き物の死骸が発するような、青白い光を放つ。
アフーム=ザーは、クトゥルフ神話の中でも
アメリカの作家ダーレスらによって描かれた
ダーレス神話に登場する神です。
一説に、かつて太古の地球を支配していた
“旧支配者”と呼ばれる邪悪なる神々の一柱
炎の神クトゥグアは
対立する神々”旧神”との戦いに敗れ、
フォーマルハウトという場所に封印されたといいます。
自らを含む旧支配者を解き放つため、
クトゥグアは新たなる炎の神を産みました。
それが冷気の炎、アフーム=ザーです。
旧神の呪縛を受けないアフーム=ザーは
一人フォーマルハウトを脱出し、
旧支配者の復活という大きな使命を果たすべく
地球に君臨しました。
しかし、最後は旧神に敗れ、
北極の地に封印されてしまうのです。
アフーム=ザーの怒りは極寒の冷気となって溢れ出し、
近接の古代大陸ハイパーボリアを
まるまる氷漬けにしました。
文明の発達していたハイパーボリアは
氷河もろとも海に沈み、
棲家を失った人々や怪物たちは
伝説のムー大陸やアトランティスに移り住んだと言われています。
ルリム・シャイコース / クトゥルフ神話
アフーム=ザーに仕える眷属。
おぞましい白蛆の邪神、
ルリム・シャイコース(Rlim Shaikorth)。
気味の悪い、巨大な白い蛆虫の姿。
大きく横に開かれた口、
鼻腔に寄り合う真っ黒な眼窩。
眼球のないその穴からは
赤い目玉に似た球を血液のごとく垂れ流し、
足元にまるで鍾乳石のように、
赤々と堆積しつづけている。
異様な光を浴びれば最期。
如何なる者も凍りつき、永遠に助からない。
クトゥルフ神話の中でも
魔道士エイボンの著作とされる
『エイボンの書』の一章、
『白蛆の襲来』に登場するルリム・シャイコースは
奇怪な魔力を操る古の神です。
移動する巨大な氷山の要塞
イイーキルスに乗って到来し、
要塞そのものが放つ青白い呪いの光は
遥か遠くにまで及んで、浴びた者は凍りついて即死。
火にくべても溶けることなく、
冷気を発し続けるといいます。
ルリム・シャイコースは強い魔術師を選別し
極寒に耐性を持たせて要塞に乗せ
自らの信者として仕えさせます。
ただし、歯向かった者は容赦無く
食い殺してしまいます。
唯一の弱点である脇腹に
偉大なる魔術師が剣を突き立て討伐しますが、
傷口から溢れ出す黒々とした体液に飲まれ、
魔導士もまた、要塞と共に没したといいます。
ジャックフロスト / イングランドの民間伝承
厳寒の冬に現れる
イングランドの霜の精霊、ジャックフロスト。
雪のように白い衣服からつららを垂らし、
その形は小人や老人、あるいは雪だるまのような姿。
寒さをふりまき楽しげに笑い、
しかし怒りに触れたとき
無邪気が転じて狂気と変わる。
いたずら好きのジャックフロストは
冷たい気候をもたらします。
煌めく霜柱は、
ジャックフロストが触った印。
秋には筆で木の葉を赤や黄色に染めて、
冬には窓にシダの葉の模様を残して遊ぶといいます。
古くは北欧から伝来し、
古代の言い伝えをまとめたフィンランドと一部ロシアの
民族叙事詩『カレワラ』などに記録されています。
普段は厳しい冬の寒さで
人々の手足を悴ませる程度のことしかしませんが、
怒らせてしまえば一変、恐ろしい光景が待っています。
子供のような無邪気な笑顔で、楽しそうに笑いながら
人を捕らえ、氷漬けにして殺すのです。
そんな狂気的な側面を持つジャックフロストですが、
伝承によってはヒーローとして描かれたりと、
毎年冬の身近な存在として
人々に親しまれてもいました。
春の到来と共に、雪のように溶けて消えていく
お騒がせな精霊は、
枯れ葉や窓に霜の模様を残して去っていくと言われています。
雪女 / 妖怪
その女の呼称は多く、
ユキアサネ、ユキムスメにツララオンナ。
恐ろしくも美しき日本の妖怪、雪女。
白装束を身に纏う、長い黒髪のその女は
白く冷たい吐息を吹きかけ
永遠の眠りへと誘う。
雪女は古く室町時代にはすでに記録があり、
日本各地にさまざまな伝承が残っています。
雪から生まれた雪の精霊とする説。
吹雪の中で死んだ女の亡霊とする説。
武蔵国、現在の東京都青梅市に住む百姓から聞いたと言う
雪女の伝説を書き起こした、
新聞記者・小泉八雲の怪談によると、
昔、武蔵国に住む老人・茂作と若い奉公人・巳之吉が
出かけた先で吹雪に遭い、
小屋で一晩過ごすこととなりました。
夜、巳之吉が目を覚ますと、
隣に眠る茂作の上で、白ずくめの美しい女が
白い息を吹きかけていました。
たちまち茂作は凍りつき、死んでしまいました。
巳之吉は美しく、まだ若いからと命を許され、
ただし今夜のことを誰かに言えばお前を殺すと言い残して
雪の中に消えていきました。
時が経ち、巳之吉はお雪という名の女を妻に迎え、
10人の子供をもうけますが、
ある時、妻に、お前は昔出会った雪女に似て綺麗だと
つい口をすべらせてしまいます。
するとお雪は、誰にも言うなと言ったはずだと
突然怒り出しました。
お雪の正体は、あの恐ろしい雪女だったのです。
しかし、お雪は巳之吉を殺せませんでした。
子供たちを大切にしなければ、
次こそお前を殺すと言うなり
お雪は霞になって消え、その後は二度と
姿を見せることはなかったといいます。
寒さにまつわる日本の妖怪は雪女の他にも。
たとえば、鎌のような鋭い爪で人を斬りつける
鎌鼬という妖怪は、主に雪国に伝わる冬の怪異です。
さてその正体とは、一体なんでしょう。
正解はこちらの記事、
天変地異の根源。災いを操る日本の妖怪5選にて
詳しくご紹介していますので、
気になる方は、ぜひチェックしてみてくださいね!