深淵に潜む妖しき神々!禍いの呪霊4選
神話に伝わる、禍々しい神々。
彼らは人を呪い、脅かし、陥れる。
彼らはこの世に災厄をもたらし、破滅に導く。
こんにちは。えむちゃんです。
今回は、深淵に潜む妖しき神々!
禍いの呪霊4選をご紹介します。
疱瘡神
疱瘡神(ほうそうがみ)。
それは数多の命を奪った疱瘡の病が
やがて災いを起こす疫病神と成り果てた姿。
疱瘡とは、
日本でたびたび流行した天然痘のこと。
6世紀半ばの奈良時代、
中国や朝鮮半島との往来が活発になったことで
日本に伝来したと考えられています。
(735年〜737年 天平の疫病大流行)
735年に九州で発生後、
瞬く間に日本全国へ広がり、
当時の総人口の30%ほどを占める
100~150万もの人が命を落としました。
平民、貴族、国政を担う重鎮たち。
医学がまだ発展していないこの時代、
人々はただ祈るほか、為すすべもありません。
そうしておよそ3年にわたり
猛威を振るった疱瘡は、
やがて疫病神として捉えられるようになったのです。
これ以降も、日本では数百年に渡り
流行を繰り返すこととなります。
こうした中で、疱瘡神の魔除けとして
赤い物が有効という考えが広まると、
江戸時代には “赤絵”という赤一色の絵などが
お守りとして人気になりました。
伝承は日本各地に存在し、
疱瘡神から身を守る、
あるいは疱瘡神を祀るための
様々な風習が現代にも残っています。
玉藻前
玉藻前。
化けの皮は麗しの美女。
されどその実、九尾の妖狐。
時は平安時代、鳥羽上皇は
ある若い女官を迎えました。
玉藻前と呼ばれるその女官は
美しく聡明で、鳥羽上皇は彼女を寵愛するようになりました。
しばらくして上皇は、
原因不明の病に冒されてしまいます。
朝廷の医師にも治すことができずにいた
ある日のこと、
陰陽師・安倍泰成が訪ねてきて
思いもよらないその原因を突き止めました。
すべては玉藻前の所業なり。
そうして真言を唱えると、
玉藻前はたちまち狐の姿になりました。
美しい女官の正体は、国家の転覆を目論む
九尾の狐だったのです。
狐はすぐさま逃げ出して、
行方をくらませました。
その後、那須野の地、現在の栃木県那須郡にて
九尾の狐が悪事を働いているとの知らせに、
鳥羽上皇は討伐隊を編成。
激闘の末、九尾の狐は退治され、
遺体はやがて毒を吐き出す巨大な石となり、
近づくものの命を奪いました。
そんな毒の石を人々は“殺生石”と呼び、
鎮魂(たましずめ)の儀式は
現代にもなお行われています。
様々な伝説が残る玉藻前ですが、
一説には、鳥羽天皇の皇后にして
第76代 近衛天皇の母にあたる、
藤原得子(ふじわらのなりこ/とくし)が
モデルになっているのではないか
と言われています。
低い身分の貴族の出でありながら
皇后という立場にまで異例の大出世をしたこと、
さらには、その聡明さに政治面で
強大な影響力を生涯持っていたこと、
そして、保元の乱の原因の一つを作り出したとされること。
こうした点から、
傾国の妖狐と結びつくと囁かれているのです。
黄竜
黄竜(こうりゅう/おうりゅう)。
東西南北、四神に囲われ
その中央を守護する神獣。
中国の伝承によると、
黄竜は
四方の方角を守る四神の長にして
皇帝の権威の象徴であり、
その姿は黄色、あるいは黄金であると言います。
雨や嵐を操る竜・応竜(おうりゅう)と
同一視、あるいは混合され、
中国の伝説的な帝・禹(う)が
治水工事を行った際には
尾で地面に溝を作り、川の水を海に流したことで
工事が成功したとも伝えられています。
日本においては、
陰陽師・安倍晴明が使役した
十二体の式神・十二天将のうちの一体である、
“勾陳(こうちん)”とも同一視されます。
黄金に輝く蛇の姿の神獣にして、
争いや激しい怒りを司る凶将です。
十二天将の詳細なお話は
こちらの記事をぜひご覧ください。
ダゴン
ダゴン。
メソポタミアの聖なる古代神。
クトゥルフ神話の悪しき怪物。
紀元前幾千年の古代メソポタミアにおいて
ダゴンは雨や穀物の神、あるいは
半身魚の海の神として崇拝されていました。
ところが近代に入り、
クトゥルフ神話に取り入れられると
一変、恐ろしい化け物として語られるのです。
クトゥルフ神話の生みの親、
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが記した
1919年掲載の物語『ダゴン』には、
このように綴られています。
第一次世界大戦が始まったばかりの頃。
太平洋の最も開けた海域で、
一隻の貨物船がドイツ軍に拿捕されました。
乗組員は捕虜となり、
そのうちのある一人の船乗りの男は
小さなボートで逃亡を図ります。
太平洋に漕ぎ出して無事脱出に成功しますが、
炎天下の大海原、あてもなく漂い
幾日も経てば、心は次第に弱っていきました。
そんなある日、男が目を覚ますと、
自分が黒いぬかるみの中にいることに気がつきました。
どこまでも続く泥の平野。
ボートは少し離れた先に漂着していました。
陸地も見えない海にいたはずが、
いつのまにこんな場所に来てしまったのでしょう。
波の音すら聞こえません。
泥からは腐敗した魚や
得体の知れない死骸が突き出して、
酷い悪臭がしました。
異様な光景に、男は恐怖を覚えながらも
気を落ち着かせこう考えました。
「おそらく火山が大きく隆起して
一部の海底が水面まで上がってきたのだろう。」
漂着して三日も経つと、ぬかるんだ地面は乾いて
歩けるようになったため
男は探索に出かけることにしました。
遠くに見える丘を目指して進みますが、
歩いても歩いても、
なぜだか全く近づいていないように感じました。
数日後、ようやく丘の頂上に辿り着いた男は
丘の反対側に深い峡谷があるのを見つけます。
底の見えない真っ暗な闇。
それはまるで深淵の混沌を覗き込んでいるかのようでした。
谷の暗闇は月が昇るにつれ、
少しずつ光が差し込み、
男は恐ろしく思いながらも
衝動的に谷へ近づいていきました。
そこで、静かに流れる川の先に
白く輝く巨大な物体を発見します。
見ると、物体には謎の文字が刻まれ、それらは
魚やウナギ、タコ、クジラ、甲殻類などの
海の生物を模っていることがわかりました。
奇妙なことには、人のような姿をした
謎の生物の絵も彫られており、
それはあまりにグロテスクなものでした。
巨大な唇、大きく剥かれた目玉。
手足には水掻きがあり、
体はクジラほどに大きい。
これは、神の姿だろうか?
人類の誕生以前、太古に絶滅した
何らかの種族の遺産に違いない・・・
そんなことを考えていた、その時です。
目の前の川が静かに揺らめき、
中から鱗に覆われた醜く恐ろしい巨人が現れ、
こちらに向かって突進してきました。
そして、物体を長い腕で巻き上げ、
だらりと項垂れて、不気味な声を発しました。
ゆっくりとした一定の声が響き渡ります。
男は気をおかしくして、
錯乱しながら元来た道を逃げ帰りました。
そこからの記憶は曖昧で
気づいたときには、男は病院にいました。
わずかに覚えているのは、
逃げ惑いながら耳にした大地の轟音と雷鳴、
そして自分の狂ったような笑い声。
男は海の真ん中で
アメリカ船に救出されたようでしたが、
そこには隆起した海底も、
黒いぬかるみもなく、
体験した全てのことは
誰にも信じてはもらえませんでした。
あのおぞましい巨人は
今も暗い深海に蠢いて、私たちを脅かす機会を
静かに伺っているのかも知れません。
いつしか地上から姿を消した、
邪悪なクトゥルフの神々。
彼らは今も深淵に身を潜め、
こちらの世界を覗いています。
クトゥルフ神話の凶悪な神々6選については
こちらの記事でご紹介していますので、
気になる方はぜひご覧ください。